おそらくED治療薬として最も著名であるViagra（バイアグラ、ばいあぐら）の有効成分であるシルデナフィルは元々は狭心症の治療薬として開発されました。しかし研究段階で男性被験者に副作用として勃起が確認され、ED治療薬「バイアグラ」として開発・販売されたという歴史があります。（アメリカでは1998年、国内では1999年から販売が開始されています。）
現在では製造元であるファイザー社が持つ特許が失効したため、多くの製薬会社から同じシルデナフィルを有効成分としたいわゆる「バイアグラジェネリック」の販売が開始されています。
また近年、ネット上では「女性用バイアグラ」「女性用ばいあぐら」といったものも見受けられます。バイアグラは女性にも効果があるのでしょうか？また女性用バイアグラとはいったい何なのでしょうか？
今回はバイアグラと女性、女性用バイアグラ、またその効果等についてお話します。
バイアグラと女性
バイアグラは女性が飲んでも大丈夫？
バイアグラ（シルデナフィル）は狭心症治療薬として研究されていた治療薬であり、PDE5（ホスホジエステラーゼ5）阻害薬に分類されます。
作用機序を端的にお話しすると、PDE5という酵素の働きを阻害することにより生体内でのcGMP（環状グアノシン一リン酸)の分解が抑えられ、陰茎周辺の血管が拡張・血流量が増加し勃起が促されます。
またこの時、陰茎周辺部以外の身体各所の血流量も増加することが良く知られており、これによりお馴染みの「頭痛」や「鼻づまり」といった副作用が発生する場合があります。
シルデナフィルが持つ陰茎以外への血管拡張・血流量増加作用から、その後も様々な適応への研究も続けられ、2008年には同じ製造元であるファイザー社から同一成分の動脈性高血圧症治療薬であるレバチオの販売も開始されています。
狭心症や肺動脈性高血圧症は性別に関係なく起こる病気であり、その治療に用いられているシルデナフィルは女性が服用しても重篤な副作用がないことが臨床の結果判明しています。
バイアグラを女性が飲んだらどうなる？
バイアグラの製造を行っているファイザー社が行った女性被験者50名にバイアグラを投与し効果を判定するといった臨床試験では、被験者の多くに女性器が濡れやすくなる（膣分泌液の増加）や性欲増進といった結果が出ました。
しかしファイザー社は公式見解で「女性の性感を向上させる作用がバイアグラにあるかどうかは未確認」としています。
また性的効果だけではなく、バイアグラ（シルデナフィル）には、常用することで老化に関わる酸化ストレスを減少させる効果があるという医学論文も発表されています。さらに血管拡張作用により加齢や疾患等で固くなった血管が広げられることで血管機能改善・アンチエイジング効果も期待できそうです。
様々な女性用バイアグラ
現在では女性用バイアグラの名目で様々な有効成分を持つ薬剤が販売されています。
ここでいくつかご紹介したいと思います。
ウーメラ
ウーメラとは、シラーバイオテクノロジーズ社から製造販売されている女性用バイアグラで有効成分はバイアグラと同じシルデナフィルです。
シルデナフィルの血管拡張作用により女性器周辺部の血流量が増加し、膣分泌液の量が増加して不感症が改善されるとされます。
女性は加齢（更年期）やストレスにより性的刺激を受けても膣分泌液の量が減少することがあり、性交痛や絶頂不全、不干渉を招きます。
ウーメラの服用で膣分泌液量を増やすことでこれらの改善につながるとされます。
また一部口コミでは血管拡張作用により陰核の勃起、感度の上昇等の記述が見受けられますが、バイアグラの製造元であるファイザー社はシルデナフィルの女性に対するそのような効果は否定しています。
副作用はバイアグラと同じく身体各所の血流量増加による頭痛、鼻づまり、ほてりが挙げられます。
アディ（フリバンセリン）
アディとはスプラウト・ファーマシューティカルズ社から製造販売されている女性用バイアグラで有効成分はフリバンセリンです。
フリバンセリンは元々は抗うつ剤として開発されていましたが、臨床中に女性被験者に対する性欲亢進作用の可能性があることが分かり、女性用バイアグラとして誕生しました。
シルデナフィルを有効成分とする女性用バイアグラとは異なり、このフリバンセリンは脳の中枢神経に作用し、ドーパミン分泌を促し、気分障害等に関係する2種類のセロトニン量を調整するといった作用機序があります。
臨床試験では女性被験者の37%に性欲向上効果が認められ、2015年8月にはFDA（アメリカ食品医薬品局）により女性の性的欲求低下障害（HSDD）治療薬として正式に承認されました。
このフリバンセリンはシルデナフィルのように「服用してすぐ作用する」ものではなく継続して服用します。
臨床試験での性欲向上効果の発現は服用開始後4週間後とのことです。
副作用としては低血圧や失神が確認され、またアルコールにより増強されることも確認されています。
ジフルカン（またはダイフルカン）
ジフルカン（またはダイフルカン）とはファイザー社が製造販売する経口抗真菌薬で有効成分はフルコナゾールです。
適応はカンジダ属及びクリプトコッカス属による感染症（真菌血症、呼吸器真菌症、消化管真菌症、尿路真菌症、真菌髄膜炎）、またカンジダ属に起因する膣炎及び外陰膣炎です。
製造元であるファイザー社は公式見解で否定していますが、一部の服用者から「服用する事で膣分泌液が増加する」との声があり、女性用バイアグラとして情報が広まりました。
有効成分であるフルコナゾールには女性の性器内のPH値を正常化する作用が期待でき、女性器の清潔化が行われるために膣分泌液量が増加するのではないかと考えられます。効果は服用後5日ほど持続するとのことです。
女性用バイアグラの購入方法
このように女性用バイアグラの名目で様々な医薬品があることが分かりました。
しかしそのほとんどが日本未承認、または適応外のものとなります。
未承認薬を国内で購入する場合は個人輸入代行業者等を利用しての通販等が一般的ですが、医薬品の輸入は偽造品混入等が大きな問題となり厚労省も注意を呼び掛けています。
またジフルカンのように国内で承認されているのも、「女性用バイアグラ」として適応外の使用をし、その結果重篤な副作用が現れた場合も公的な補償が受けられません。
安易な気持ちでパートナーに服用させる前にこれらのリスクも考慮しましょう。
